国立西洋美術館 建築ツアー

国立西洋美術館の概要

第二次世界大戦後にフランス政府に差し押さえられていた松方コレクションを、新しい美術館を建設することを条件に、寄贈返還が実現しました。
日本政府は、スイスで生まれの主にフランスで活躍していたル・コルビュジエ(1887-1965)に設計を依頼しました。

建設にあたっては、コルビュジエの弟子、前川國男坂倉準三吉阪隆正が協力し、1959年に完成しました。国立西洋美術館の前には、弟子のひとり、前川國男が設計した東京文化会館があります。

建築ツアー

はじめて国立西洋美術館の建築ツアーに参加しました。
ル・コルビュジエが設計した前庭や本館を、10名ずつ2組のグループに分かれてボランティアスタッフが案内してくれます。
イヤホンガイドの紐の色で、赤チームと緑チーム各10名ずつに分かれます。
赤チームはツアー参加がはじめて方々、緑チームはツアー参加2回以上の方々のようです。それぞれツアー内容が、異なるのでしょうか。

ツアーに参加するためには、事前予約が必要です。国立西洋美術館のホームページから予約ができます。
ツアー言語は日本語のみ。英語があると外国人観光客が参加できますね。

本館1Fロビーに14時45分から受付が始まり、ツアーは15時にスタートします。
時間帯もあるのか、一般のお客様のほかに修学旅行生や外国人観光客など混雑しており、館内はザワザザワしていますが、イヤホンガイドからガイドさんの声が聞こえるので安心です。

参加費は無料です。ただ常設展示会場に入るために、ツアー参加前に常設展の入場料を購入する必要があります。そのため実質参加費は、500円です(ネット購入可、当日窓口でも購入できます)。

ツアー中の写真撮影は禁止ですが、ツアー終了後、常設展示会場に再入場し、ゆっくり写真を撮ることができるので、ガイドさんの説明に集中できます。

メモをとる鉛筆も貸してくれます。私はシャーペンを持っていたのですが、「それはとがっているからダメ!」と怒られてしまいました。

ガイドさんは、説明のなかで国立西洋美術館のことを「西美せいび」と略していました。

1)モデュロール
ミュージアムショップに入るところ右手壁には、モデュロールの図、左手壁にはル・コルビュジエが描いた西洋美術館のスケッチが描かれています。

モデュロールの図
ル・コルビュジエが描いた西洋美術館のスケッチ

ル・コルビュジエは、人体の寸法と黄金比をもとに建築的尺度のモデュロールを考案しました。モデュロールは、西洋美術館のあらゆ場所でみられます。

スケッチには、依頼していないのにもかかわらず、劇場や企画展会場が描かれていました。これらは実現していませんが、弟子の前川國が設計した東京文化会館が、西洋美術館の前に1961年に完成しました。

西洋美術館からみた東京文化会館

2)前 庭
前庭の床の目地、外壁もモデュロールで割り付けられています。
正門は公園口かと思いきや、じつは西側の門となります。

西側の門からロダン作「地獄の門」のブロンズ像に向かって、黒い太いラインが伸びています。ラインは途中、左へ直角に折り曲がり、美術館の入口へと向かわせます。逆の右側の直線の先には、前川國男が設計した東京文化会館の舞台のセンターとなり、ル・コルビュジエと前川國男の師弟の饗宴を楽しむことができます。
また西洋美術館と東京文化会館の建物の高さは同じだそうです。前川國男の師匠、ル・コルビュジエへのリスペクトの気持ちが表れでしょうか。

建物の外壁はパネルになっている。雨にあたると表情が変わる
床の目地の割り付けもモデュロール

3)ピロティ
ル・コルビュジエが提唱した近代建築の5原則のひとつが、ピロティです。
ピロティは、柱で建物を持ち上げた空間で、人も風も自由に行き来できる気持ちのよい空間です。しかし、ピロティ形式の建物は、地震に弱いことが指摘されることもあります。西洋美術館も平成7年の阪神淡路大震災を機に、耐震対策が見直されました。免震レトロフィットを採用することでオリジナルの建物の維持、そして展示されている美術が守られています。

ピロティ 柱は7本×7本=49本で建物を支えている
免震構造 地下の小窓から見ることができる

4)19世紀ホール
本館の吹き抜け空間は、ル・コルビュジエによって19世紀ホールと名付けられました。
19世紀ホールに足を踏み入れると、特有な緊張感を感じます。薄暗いホール内に天井の三角のトップライトから差し込む光が、ロダンの彫刻に降り注ぐ光景は、とても印象的なものです。

19世紀ホール 三角のトップライト
床照明 効果がなかったため使われていない
スロープ 展示室に向かうスロープ。床もモデュロールの割り付け。床からの線をたどるとスロープ壁の線にいきあたる

19世紀ホールは、現在無料で開放されています。

5)2階展示室
2階展示室は、19世紀ホールを取り囲むような螺旋状の展示室となっています。散歩をするように作品を鑑賞することができます。
ル・コルビュジエは、作品が増えたときに建物を拡張し、無限に作品を収蔵できる無限成長美術館を想定しました。実際には、前川國男が設計した新館が増築されています。

2階展示室は、高い天井と低い天井で構成されています。高い天井の色は白、低い天井の色は黒と、コントラストが際立っています。
高さもまたモデュロールが採用されています。低い天井の高さは、床から226cmです。

低い天井上のガラス張りの部屋は、屋上から取り入れた自然光を展示室へ入れ込むための照明ギャラリーでした。現在は、人工照明となっています。

床から照明ギャラリー下の低い天井までの高さは226cm
バルコニーから2つめのバルコニーをこえて外がみえる。ガイドさんのお気に入りの場所
2階展示室のバルコニーから階下のロダンの彫刻を鑑賞できる
中庭を眺められる大きなガラス窓の前に休憩できるベンチがある
19世紀ホールからスロープを進み、2階展示室に向かう途中にショートカットができる階段がある。現在は使われていない
中3階へ続く階段は、小さな作品を飾るためのスペースになっている。現在は使われていない

柱の直径は当初53cm、2階は43cmでしたが、日本の基準にあわせて60cm 、53cmとなりました。姫小松の木枠にコンクリートを流し込んでつくられたため、柱の表面には美しい木目が表れています。

2階展示室の柱、手前のツルツルした質感の筒は、ダクト。真ん中の表面に味わいのあるものが本物の柱
ピロティの柱

おまけ

美術館には Cafe すいれんがあり、ル・コルビュジエプレートをいただくことができます。

ル・コルビュジエが考案した近代建築の 5 つの要点のひとつ、ピロティを、黒いバゲットのオープンサンドで表現し、国立西洋美術館本館を、四角いプレートで表現しているようです。

ル・コルビュジエプレート。1900円でドリンク付き

新館には、初展のピカソの作品「小さな丸帽子を被って座る女性」と「女性の胸像」が展示されていました。

国立西洋美術館
【Home Page】https://www.nmwa.go.jp/jp/

【アクセス】
 Google Map:https://maps.app.goo.gl/otSefgShVrj2MdqH6
 JR上野駅下車(公園口出口)徒歩1分
 京成電鉄京成上野駅下車 徒歩7分
 東京メトロ銀座線、日比谷線上野駅下車 徒歩8分

参 考

国立西洋美術館 ホームページ
 https://www.nmwa.go.jp/jp/
国立西洋美術館 パンフレット
国立西洋美術館 前に話リニューアル プレリリース 2022年4月8日
 https://www.nmwa.go.jp/jp/information/pdf/20220408_press.pdf

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