
「ヒルマ・アフ・クリント展 Hilma af Klint:The Beyond」が、東京国立近代美術館 で2025年3月4日(金)から6月15日(日)まで開催されます。アジア初の大回顧展です。
ヒルマ・アフ・クリント(Hilma af Klint 1862〜1944)はスウェーデンの芸術家で、長い間、世界に注目されずに無名の画家でした。
なぜ、これまで美術史に埋もれていたのでしょう。
ヒルマ・アフ・クリント Hilma af Klint
アフ・クリントは、積極的に作品を展示したり宣伝することはしませんでした。ごくわずかな人にしか作品を見せなかったといいます。さらに、アフ・クリントが残したノートには、自分が亡くなったあと20年間は一般公開してはならない、とのメモがありました。
そんなアフ・クリントの作品が多くの人の目にうつったのは、2013年ストックホルム近代美術館で開催された「Hilma af Klint:Pioneer of Abstraction」です。死後20年をはるかに超えた、約70年後のことです。それ以前の1986年、ロサンゼルスで開催された共同作品展「The spiritual art」にも、たった1枚だけが出展されています。
ストックホルム近代美術館での美術展を機に、アフ・クリントと作品は大きな注目を浴びるようになっていきます。
現在、アフ・クリントは、抽象絵画のパイオニアの評価を受けています。カンデンスキーより5年も早い1906〜07年に最初の抽象画の作品を完成させています。
また、偶然か必然か、アフ・クリントが亡くなった1944年に、抽象画家のカンデンスキーとモンドリアンも亡くなっています。

精神世界への関心
ヒルマ・アフ・クリントは、神秘主義やスピリチュアルリズム、交霊術に関心をもっていました。それは、当時珍しいことではなかったといいます。ヘレナ・P・ブラヴァツキー(1831〜91)が提唱した「神秘的な方法によって神意を授かろう」という神智学が世界的に広まり、1898年にはストックホルムに神智学協会が設立されたからです。
アフ・クリントは、神智学的な絵を描くようにと啓示を受け、1906年から1915年に「神殿のための絵画」(The paintings for the temple)の作品群の制作に取りかかりました。
「神殿のための絵画」とは193点から成る作品群のことで、アフ・クリントが構想した作品を収めるための建造物にちなんでいます。残念ながら、建造物は完成しませんでしたが、緻密な構想がノートに残されていました。
神殿は4つの層から成り螺旋状をしていて、193点の作品をどこにどのように配置するかまで書かれていました。また「青の本」と呼ばれる書籍には、水彩画とモノクロ写真で193点の作品が残されています。
「神殿のための絵画」の制作は1908年から4年間母親の介護で一旦休止されますが、1912年に再開されます。
1915年、祭壇画を最後の作品群として、全193点にも及ぶ「神殿のための絵画」、つまり神から啓示のミッションは終焉を迎えました。


「ヒルマ・アフ・クリント」展
美術展は、
1章 アカデミーでの教育から、職業画家へ
2章 精神世界の探究
3章 「神殿のための絵画」
4章 「神殿のための絵画」以降;人智学への旅
5章 体系の完成へ向けて
という5章から構成され、時系列で作品を鑑賞することができます。
3章の「神殿のための絵画」10の最大物は、高さ3.2m、幅2.4mもの巨大な絵画で、1907年10月2日に制作を開始して、同年12月7日のわずか2ヶ月で完成しました。そのスピード感は、作品にも表れています。よく見ると絵の具の下のドローイングの線や塗りむら、絵の具のしたたりが見られます。
10の最大物は、幼年期、青年期、成人期、老年期の人生の4段階を描いたアフ・クリントの作品のなかで最も大きなものです。



余談ですが、オーディオガイドを借りると、アフ・クリントと同時期に活躍したスウェーデンの作曲家、W. ステンハンマルのカンタータ「歌」Op. 44間奏曲を聴きながら鑑賞することができます。専用機器を借りるよりも、自分のスマホにアプリをダウンロードしたほうが、会期中であれば何度も解説を聞くことができるのでおすすめです。アプリは会場の二次元コードからダウンロードができます。専用機器もアプリも650円です。言語は日本語のほかに英語、中国語、韓国語があります。
アフ・クリントは、1920年代に入ると神智学から独立した人智学へ傾倒し、提唱者のルドフル・シュタイナー(1861〜1925)からの影響を強く受けます。
さらに1920年代半ば以降は、作品や自分の考えをノートに整理しはじめます。そのノートは124冊にも及び、「5章 体系の完成へ向けて」で、その仕事ぶりをみることができます。
会期は残りわずかとなりましたが、ぜひこの機会に鑑賞するとよいでしょう。アフ・クリントは世界的に大変人気なので、今度いつ日本で回顧展が開催されるかわかりません。
また、美術展では珍しく全作品撮影OKです。ただし、フラッシュと動画撮影は禁止です。
美術館にはカフェはありませんが、4階に「眺めのよい部屋」という名前の展望休憩室があります。


2年前に『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』というヒルマ・アフ・クリントを描いた映画が上映されましたが、今回美術展にあわせて、東京渋谷のユーロスペースで再上映されます。
『ヒルマ・アフ・クリント展』図録, 日本経済新聞社, 2025
ヒルマ・アフ・クリント展 Hilma af Klint:The Beyond」
https://www.momat.go.jp/exhibitions/561
場 所:東京国立近代美術館
会 期:2025年3月4日(金)~6月15日(日)
時 間:10:00〜17:00(金・土曜は10:00〜20:00)入館は閉館の30分前まで
『見えるもの、その先に ヒルマ・アフ・クリントの世界』
http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000858
場 所:ユーロスペース
会 期:6月7日(土)~13日(金) 上映時間未定
The HILMA AF KLINT Foundation
https://hilmaafklint.se/sv/om-hilma-af-klint/
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