
フィンランドの都市ユヴァスキュラは、湖水地方の中心部にある美しい都市で、2カ所の世界遺産があります。
フィンランドの首都ヘルシンキからはおよそ北へ270km、電車で3時間強の場所に位置しています。
ユヴァスキュラは、20世紀を代表する建築家のひとり、アルヴァ•アアルト(1898-1976)が幼少時代を過ごし、1924年にキャリアをスタートさせた地でもあります。
またアアルトが設計した建物が多くあることでも有名で、古典主義様式に基づいた初期の建物から、「これぞアアルト!」といったモダニズム建築までもみることができます。
アアルトの聖地ともいえるユヴァスキュラをこの夏、自転車で巡りました。
自転車は宿泊先のホテルベルソでレンタルできました。無料です。フィンランドでもっとも? 有名なJOPO(ヨポ)です。
JOPOは、ブレーキがペダルを逆に回すことで止まるコースターブレーキです。はじめてコースターブレーキの自転車に乗ったので、ひとけのない場所で練習してから出発しました。


地図の番号は、私が回った順番です。ホテルベルソがスタートです。
① ヌオラ邸改築 Renovation of Nuora House (1923–24)
もともとヌオラ邸は1階と屋根裏部屋の構造でした。下層部は丸太造りで、上層部は板張りでできていました。
アアルトは、外階段とバルコニーを備えた2階建ての住宅兼商業用建築へと改修しました。広い庇と窓枠が、この建物にクラシックな印象を与えています。




② ヴィータタワー Viitatorni(1957-62)
ヴィータタワーは、地上13階建て全72戸のアパートです。中央にワンルームタイプ、両端に3人家族向けの住戸があります。ヴィータニエミの庭園住宅地の中心的な存在で、街並みに調和と統一感をもたらしています。



③ アイラアパート Aira talo(1924–26)
アイラアパートは、ユヴァスキュラで最初の大規模集合住宅です。
3階建て、3つの階段からなるこの建物には、18戸の住戸がすべて同じ間取りで、同じ広さでした。


④ 市立劇場 Kaupunginteatteri
市立劇場は、アアルトの死から6年後の1982年に完成しました。エントランスホールとロビーは、見学できるようです。


⑤ ネモ・プロフェータ・イン・パトリア NEMO PROPHETA IN PATRIA(1954-55)
「Nemo propheta in patria」は、ムーラツァロの実験住宅へ向かうための移動手段として、アアルトが設計した長さは約10メートル、幅は2.5メートルの木造ボートです。
現在は、ユヴァスキュラのルタッコ港に、専用に建てられたシェルターの中で常設展示されています。
名前はラテン語で、「人は自分の故郷では認められにくい」という意味です。



⑥ ソデックス情報センター Sodexo Tietotalo
旧ユヴァスキュラ警察署の建物で、アアルトが設計した行政街区計画の建物のひとつです。
1970年に完成したこの建物は、外観が警察のビルらしくなく、オフィスビルの印象を与える斬新なものでした。そのために住民にとっては親しみやすい印象を与えました。
現在、オフィスとして利用されており、平日は1階でランチを食べることができます。
写真を撮り損ねました。この建物の前にループ橋のようなものがあり、自転車での下りがおもしろく動画を撮って興奮していたのでしょう。すっかり通り過ぎてしまいました。
またユヴァスキュラに行く理由ができました。

⑦ 労働者会館 Rakentajantalo(1975−76)
労働者会館は旧ユヴァスキュラ警察署(⑤)の近くにあります。



⑧ ラウレン邸 Casa Laurén(1925)
キュミン伐採組合(Kymin Uittoyhtiö)の事務局長ヒャルマル・ラウレンのために設計されました。
完成当初は、大型のアパートが2戸、小型のアパートが2戸、そして地下には店舗用スペースが設けられていました。しかし、当時の住宅不足のため、店舗スペースも最初から住居として使われていたそうです。
古典主義建築の特徴がみられ、特に注目すべき点は、建物の端にある柱廊玄関へ続く装飾的な階段や、庭側の窓が無造作かつ不規則に配置されている、遊び心あるデザインが挙げられます。
1952年以降、この建物は鉄道燃料会社VAPOの所有となり、その後、大きな改修が行われました。




⑨ ユヴァスキュラ教育大学(現在のユヴァスキュラ大学) Jyväskylä University(1952-71)
1951年、ユヴァスキュラ教育大学の拡張をデザインするための招待コンペで1等賞をとりました。コンペは、新しいいくつかの建物ばかりではなく、キャンパスの全体的な計画も含まれていました。
アアルトの計画は「URBS」とよばれ、建物を環境に馴染ませ、他の参加者の計画よりも多く既存の建物を保存したことで評価されました。
1950年代には段階的に、新しい本館、図書館、カフェや会議棟、学生寮、体育館2棟、屋内プール、教職員住宅、暖房施設(ボイラー室)が完成しました。これらの建物はすべて赤レンガで覆われて、統一感のあるデザインとなっています。
さらにこの計画には、運動場、緑地、歩道、そしてアルヴァ広場を含むいくつかのセレモニー用の中庭も含まれていました。
アアルトの建物のレイアウトとデザインは、アメリカスタイルのキャンパスに基づいています。
1964年にプールが、1965年に学生寮の増築が終わり、最後に、白い漆喰の外観が特徴的なスポーツ学部棟が1971年に完成しました。キャンパス南側の区画を区切る役割を果たしました。



⑩ アアルトアルヴァリ 室内プール AaltoAlvari uimahalli
アアルトが設計した唯一のプールです。ユヴァスキュラ大学の建築コンペの計画の一部でした。
最も古い部分は1955年に建設されたもので、25メートルプールもまたその当時に建設されました。子ども用プールは1964年に、1975年に室内に50メートルプールはプール増築されました。スパセクションは1991年に完成し、その完成後、プールは「AaltoAlvari」と命名されました。



⑪ カルピオ邸 Villa Karpio(1923)
カルピオ邸は、もともと傾斜面に建てられた別棟でしたが、アアルトは、建物全体を修繕して使いやすくする改修案だしました。
最初に彼は、かなり包括的な修繕計画を立て、その後中央の廊下を追加することで、急な傾斜地に2階建ての増築とガレージを設けられるようにしました。しかし最終的には、改修は当初の計画よりもかなり控えめな形で実施されました。建物は平屋建てとなり、2部屋とキッチンのみが設けられました。また、ロッジア風のベランダも当初の計画より小さな規模で建設されました。



⑫ アルヴァアアルト美術館 Alvar Aalto museo(1971–73)
外壁には、アラビア社で作られた白い「ハッラレンガ」というレンガが使われていて、磁器の細い飾りもついています。
入り口のドアは銅でできていて、真ちゅう製の取手もアアルトのデザインです。



⑬ Aalto2
Aalto2は、アアルトが設計した2つの建物、アルヴァ・アアルト美術館と中央フィンランド博物館とを繋ぐパイプの役目の美術館です。





(展示写真)

ヴェイッコ・ヒルヴィマキの作品
Päivö Oksala パイヴォ・オクサラ(1907〜1974)は、フィンランドのラテン語学者です。
オクサラはアルヴァ・アアルトの建築に関心を抱いていました。
アアルトの友人でもあり、ユヴァスキュラの美術館協会(Alvar Aalto-museoseura, Jyväskylän taidekoelkamat)の会長を務めていました。

⑭ 中央フィンランド美術館 Museum of Central Finland(1959–61)
もともとは、1932年に建築家パウリ・E・ブロムシュテット( Pauli E. Blomstedt)が設立間もない中央フィンランド博物館協会のために、ルース公園に建設予定の科学図書館に隣接する美術館のスケッチを描きました。しかし、協会の資金が限られていたためこの計画は頓挫し、別の場所にレンガ作りの建物が建ちました。
その後、ルース公園の立地のよさと大学に近いことを理由に、協会がアアルトに美術館の設計を依頼し、最終的な設計図は1959年に完成しました。
1976年、美術手狭になったことでアアルトは美術館の拡張計画のスケッチを描きました。しかし、財政上と都市計画上の理由から、拡張工事は10年間棚上げされました。拡張工事が実際に着工されたとき、当初の計画はもはや現状のままでは実施に適さないことが判明しました。1990年、アアルト建築事務所は美術館の大規模な改修と拡張工事を計画し、美術館入口をケスクサーラン通り側からセミナーリン通り側に移設しました


アルヴァアアルト美術館、Aalto2、中央フィンランド美術館の3つの建物の位置関係がよくわからなかったのですが、結局3つの建物は、2023年にオープンしたAalto2パイプとなり一体化したようですね。

⑮ Forenom Aparthotel Jyväskylä(1926–29)


⑯ ユヴァスキュラ労働クラブ Jyväskylä Worker’s Club /Aalto sali(1924-25)
初期のスケッチには、庭が描かれていましたが実現しませんでした。
アイノとアアルトは、この建物のために家具、照明器具、備品を特別にデザインしました。



ユヴァスキュラ大学中央図書館 Jyväskylä University Library(1974)
ユヴァスキュラ大学中央図書館は、建築家アルト・シピネン(1936-2017)によって設計されました。
改修工事は2021年に完成しました。アルト・シピネンの息子である建築家アリ・シピネンによって設計されました。現代風に改修されましたが、色彩、エントランスロビーと採光窓の雰囲気は、オリジナルのまま残されています。



【ベルソホテル :ユヴァスキュラで利用したホテルのご紹介】
駅から6〜7分ほどの街の中心にあり、現地までゆるやかな坂道が続きます。
おすすめポイント
① JOPOの自転車を無料でレンタル
② スーツケースを無料で1晩、預かってくれるという親切さ
【1日目ベルソホテル宿泊 2日目サウナッツァロの村役場宿泊、3日目ヘルシンキへ】
という行程にもかかわらず、3日目までスーツケースを預かっていただくことができ、サウナッツァロの村役場へは、身軽で行くことができ大変助かりました。
③ 清 潔
建物自体は古そうですが、掃除も行き届いており清潔感がありました。朝食のビュッフェも種類が豊富です。
④ サウナ
サウナは利用しなかったのですが、サウナあり!
⑤ 便利な立地
目の前のショッピングモールの地下に大きなスーパー(Mestarin Herkku)があり、2階にはCAFFITELLA BAKERYがあり、ビュッフェスタイルのランチを楽しめます(12.90€)。
また、ホテルの隣のビルには、フィンランドのお馴染みのブランド、marimekkoとRobert’s Cofeeもあります。
HOTEL VERSO
Kauppakatu 35, 40100 Jyväskylä Finland
https://hotelliverso.fi/en/



Biografiskt lexikon för Finland
https://blf.fi/artikel.php?id=7020
Silmonkokija
https://silminkokija.blogspot.com/2020/06/jyvaskylan-kesa-65-v.html
平山達訳『建築ガイドブック アルヴァー・アアルト』2009、丸善株式会社
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