
東京、池袋にあるかつて女学校だった自由学園明日館。空間の魔術師、アメリカの建築家フランク・ロイド・ライト(1867-1959)とその弟子、遠藤新による共同設計です。
ライトは、共同設計者名を連ねることを好みませんでしたが、遠藤新には絶大なる信頼を寄せていました。自伝にも、遠藤新を「My son」と書いているそうです。
歴 史
池袋駅メトロポリタン口から歩いて10分足らず、自由学園明日館までは細いあぜ道のような道を進みます。太平洋戦争の戦火を免れ、区画整理が行われなかったためです。
ライトは日本贔屓で、趣味が浮世絵収集でした。自国のアメリカ以外でライトの作品を見られるは日本だけで、旧林愛作邸(1917)、旧帝国ホテル(1923、正面玄関部の一部が博物館明治村に移築)、旧山邑邸(1923)、自由学園明日館(1926)の4つです。
ところで、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエとともに「近代建築の三大巨匠」のひとりのライトが、なぜ日本の学校の建築を引き受けたのでしょうか。
自由学園は、羽仁もと子・吉一夫妻によって1921年に創立されました。羽仁もと子氏は、日本の女性ジャーナリストの先駆けで家計簿を考案した人物です。
夫妻は、娘が小学校に通う頃によい学校が欲しいと思うようになりました。クリスチャンだった夫妻は、同じ飯田橋の富士見町教会に通っていた遠藤新に相談すると、旧帝国ホテル建設のために来日していた師匠のライトを紹介してもらいました。
ライトのおばさんもまた、大変、教育に関心があり、アメリカで学校を経営していました。なにより羽仁夫妻の教育への情熱に共鳴し快諾したそうです。
夫妻とはじめて会ったのが1921年1月、そこからわずか3ヶ月後の4月15日、未完成の教室で第1期生26名を迎え入学式が行われました。

ライトは、同時期に手がけていた旧帝国ホテルを、大幅な予算オーバーと工期の遅れで建築の途中1922年に解任されました。帰国後は二度と日本に来ることはありませんでした。
ライト帰国後は、旧帝国ホテルも自由学園も遠藤新が引き継ぎました。

黄 色:中央棟・西棟1921〜22年
ピンク:東棟1925(フランク・ロイド・ライト、遠藤新)
黄 緑:講堂1927(遠藤新)
自由学園明日館 見学のポイント(建築解説より)
自由学園明日館は、prairie(プレイーリー)スタイル、大草原様式です。
大草原様式は、緩やかの屋根の勾配、軒のラインは水平線を強調し、建物は地面に水平に広がっているのが特徴です。
1893年のアメリカ、シカゴでシカゴ万博が開かれ、日本も参加しました。日本館は、10円玉にも描かれている京都の平等院鳳凰堂をモチーフにした建築でした。これはライトの大草原様式に影響を与えたと言われていますが、ライトは強く否定しています。
(1)色
自然と調和する色の建物。芝生がきれいなときにまた訪れたいです。
・クリーム:壁などの漆喰
・緑:芝生、屋根の色
・こげ茶:柱、床など→(2)の写真参照

(2)空間の連続性
玄関は外と内をつなぐ空間。外と玄関に同じ部材の大谷石を段差をつけないことで、連続した空間が生まれます。ただし、地面と床に段差がない構造は、多湿な日本の気候には馴染みませんでした。また、建物の内にも連続性が見られます。

大教室の前の廊下から、ホールに向かうために3段階段を上がると、上へ食堂に上がる階段、下へトイレに下がる階段があります。
また、天井の高低が閉塞感と開放感の演出を生み出します。
ホールの入り口部分の印象は天井が低く暗いですが、一歩足を踏み入れると大きな窓と天井の高さでドラマチックな空間が広がっています。



(3)壁画から見る歴史
1931年、開校10周年を記念して生徒が旧約聖書出エジプト記の一節をテーマに壁画を描きました。この壁画は、1999年の保存修理工事の際に見つかりました。戦時中、敵国の壁画が描かれていることで弾圧を恐れて漆喰で塗り固めたようですが、理由ははっきりしていません。

(4)増 築
食堂には東西に大きな窓ガラスがあり、その外にはテラスがありました。しかし、学生が増えたことで食堂が手狭となり、1923年頃、弟子の遠藤新がバルコニーだった場所を小部屋としました。ただ、師匠が手がけたものに手を加えることに二の足を踏み、大きな窓ガラスは、食堂内の他の窓ガラスに使いました。
建物の斜めの角度は、三角屋根と同じ角度にすることで建物に統一感をもたせましたが、斜め45度の食堂窓から遠藤新の苦労がうかがえます。




(5)家 具
ホールにある六角椅子は、設計者、設計年は不明ですがおそらく、ライトか遠藤新によるものと言われています。旧帝国ホテルにも、ピーコックチェアと呼ばれる背もたれが六角形の椅子がありました。
新しい椅子は、遠藤新によるデザインです。座面が一枚板ではないのは、コストを抑えるための工夫です。




(6)女学生の目線
『当時の女学生の目線で見てみましょう。学び舎なので座った高さが一番、美しい』と建設解説で説明をいただきました。椅子は座ってもよいので見学に行った際はぜひ、女学生の目線で見てみましょう。
写真は、身長161cmの私が座ったときの目線です。女学生はもう10〜20cmくらい低いでしょうか。


追 記





重要文化財 自由学園明日館
通常見学:10:00〜16:00(15:30までの入館)
夜間見学日:毎月第3金曜日 18:00〜21:00(20:30までの入館)
休日見学日:10:00〜17:00(16:30までの入館)
※月1日程度 当館の指定日のみ。
休館日:毎週月曜(月曜が祝日または振替休日の場合はその翌日)、年末年始
※不定休あり要事前確認
見学料:建物見学のみ:¥500
喫茶付き見学 :¥800
夜間見学・お酒付き:¥1200

ホームページに見学カレンダーがでているので、確認してみましょう。
https://jiyu.jp/tour/
月に1度、全館を見学でき、建物解説も聞ける日があります。
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